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ダービー 新古典主義の壺が描かれた皿 (1780年代前半頃)
A Derby Plate Decorated with Neo Classical Urn Ca. early 1780s



 

 

 チェルシー・ダービー期(1770〜84年)に多く描かれた図柄による皿。外周がゆるやかに波打つ皿の形は、1750年代からチェルシーで用いられていたものである(チェルシー・ダービー期の作例としては、ダービー「CD11」を参照)。縁部分には薄紫地にスクロール模様が線描され、そこから緑色と灰色(または濃緑)の飾り綱が垂らされている。皿中央に花飾りのついた新古典主義の壺が描かれ、周辺部には蝶などの昆虫が散らされている。縁にデンティル・ギルディングと呼ばれる金彩、飾り綱を垂れさせるところにも金彩模様、それから裏面高台の外周にも金彩の一重線がひかれている。

 裏面には、「王冠の下に錨」マークが赤色で記されている。この「王冠の下に錨」マークは、チェルシー・ダービー期の中盤、1775-77年頃に、チェルシー工場で絵付けされた作品に用いられたマークであると考えられている。ただし、このマークは(そもそもが稀なマークであるが)、これまで金色で記されたものしか知られていなかった。なお1770年代終盤頃の作品に見られる刻込みの「N」と高台内側の穴は本品には見られない。(ダービーのマークのページ参照。)

 本品は、一見すると典型的なチェルシー・ダービー期の作品なのだが、マークをきっかけに疑い出すと、色々と気になる点が出てくる(もっとも、マーク自体は色こそ異なるものの、形や描き方に関しては通常の金色のマークと同一であるが)。この図柄の他の作品と比べると、本品の縁のスクロール模様や飾り綱はあまりに簡素な描き方である。裏面に焼きむらがある「二級品」的な素地であるのも、この時期にはめずらしく、奇異な感じを受ける。また、後に本品と図柄もマークも同じという作品の存在が明らかになったのだが、図柄に関しては中央に描かれた壺の形まで同じであった(一般に壺の形は作品ごとに異なる)。こうした特徴は、本品が、やや時代が下ったダービーで描かれた補充品(素地は瑕疵のある古いストックを用いた)であるか、あるいは外部絵付けによるコピー作品である可能性を示しているように思われる。

 ちなみに、本品は皿の表側の面に焼成時についた眼跡が3か所ある(いずれも眼跡の上に昆虫を描き込んで眼隠しにしている)。これは、窯の中で皿を裏返しにして「伏せ焼き」をしたことを示しており、その際皿の支えの跡が残ったものである。ダービーの皿類では、チェルシー・ダービー期の作品には、このような表側の面に眼跡がある例が多い(ダービー「CD8」参照)。1780年代後半になると、眼跡は皿の裏側に残されることが多くなる(すなわち窯の中で皿が上向けに置いて焼かれるようになった)。また、1780年代終盤以降に見られるアルファベットの刻印も本品には見られない。したがって、本品に関しては、絵付けが行われた時期は別としても、皿が焼かれたのは1780年代前半までである可能性が高いと思う。また、高台の先端がとがっており、平らに挽き切られた部分がほとんどないことから、チェルシー・ダービー期のうちでも後半に製造されたものと考えられる(ダービー「D2-13」参照)。


マーク:裏面に赤色で「王冠の下に錨」
Mark: <Crown over Anchor> painted in red on the bottom
直径(D):22.5p

(2010年11月掲載)