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大英博物館(英国:ロンドン)
The British Museum (London, UK)



 英語名は「英国博物館」なのに、日本語名だと「大英博物館」となる、権威ある博物館です。特に、ロゼッタ・ストーンやむき出しのミイラなど古代エジプト関連の収蔵物で世界中に名を馳せていますが(映画「ハムナプトラ(原題:The Mummy)」の連作で、さらにイメージが固まった感もありますがどうでしょう?)、もちろん幅広い収蔵物(絵画以外)を誇る、まさに正統派博物館です。

       
Europe Section

 陶磁器についても古代ギリシャの作品から色々とありますが、ここでは何と言っても18〜19世紀英国作品を中心に見るべきでしょう。展示は2階(正確にはUpper FloorsのLevel3なのですが、とにかくこの建物は複雑な構造になっているので注意が必要です)の「欧州セクション」(年代別にいくつかの部屋に分かれています)にあります。かなり広いスペースではあるのですが、若干ゆったりしすぎる展示で、もっとたくさんの作品を出してくれてもいいのにとも思います。さらに、「大英」博物館としては、ドイツやフランスなどの大陸作品にもきちんと展示スペースを割かないわけにいかないらしく、それはそれで素晴らしいのですが、英国作品の数にしわ寄せが来ているのは明らかです。

 それでも置いてある作品には、さすがにうならされます。18世紀英国磁器に関する研究の歴史を彩ってきた有名な作品がいくつもあり、絵画に例えれば「美術の教科書に出てくる作品」と言ったところでしょうか。展示替えもよくあるのかもしれませんが、以下、私が見た中から具体的な作品をご紹介します。

 まず、何と言っても必見なのはボウです。「ボウの参照文献」のページでご紹介している本博物館発行の"Bow porcelain 1744-1776"に載っている文献的価値の高い、まさに「一点もの」が並んでいます。Bowの主要絵付け師であるThomas Craft本人による詳細な解説つきの箱入りで発見された「Craftのボウル」(箱は展示されていませんが。「原典を読む 1」参照)や、裏面に氏名(Thos. & Ann Target)と年月日(1754年7月2日)が記載されていることで名高い「Targetの植木鉢」、それにコラム2の「ボウ」のページでもご紹介した”Made at New Canton 1750”と記載された丸型インクポットなどです。

 ダービーも圧巻で、コラム2の「ダービー」のページでご紹介した「苺のクリーム差し」や、最初期作品として有名な白磁の「いのしし像(ペア)」などのAndrew Plancheによるドライエッジの人形、それに、”Girl-on-a-Horse”と総称される謎の多い過渡期(Planche期からDuesbury期へ)の人形作品も展示されています。ダービーに関しては19世紀作品も注目で、"Long Tom Vase"と呼ばれる背の高い美しい大壷などがあります。

 その他の窯では、Girl-in-a-Swingの彩色人形、プリマスの白磁の雉像(ペア)、ロントンホールの花のフリル付き大壷、もちろんチェルシーやウースターも素晴らしい作品があります。言葉で伝えられない部分は、是非実際にご覧になることをお勧めします。

 それから、本博物館の目玉展示品のひとつに「ポートランドの壷 (Portland Vase)」があります。これは古代ローマ時代のガラス器の傑作ですが、英国陶磁器界では、ウェッジウッドが1790年に心血を注いでジャスパーウェアによるコピーを製作し、さらに後年、自社のマークにまで採用したことで有名です。本博物館にはウェッジウッドによる「ポートランドの壷」もありますので、是非注意して見比べてみてください。(ただし、展示セクションは異なります。ウェッジウッドは他の英国陶磁器と一緒のセクションにありますが、本家「ポートランドの壷」の方は、同じく2階ですが「古代ローマ」関係展示室にあります。)

     
Sir Percival David Collection

 最後になりましたが、本博物館ではアジア関連の展示も充実しています。建物の奥の部分の多層階に渡って、中国、インド、韓国、日本に関する各々独立した展示スペースが確保されています。一番充実しているのは中国のセクションで、各時代の磁器の優品が揃っています。日本セクションは最上階の5階にあり、磁器は多くありませんが、それでも鍋島などがあります。それとは別の展示で、特に見逃してはいけないのは、パーシバル・ディビッド卿(Sir Percival David)の中国磁器コレクションです(このコレクションだけのために大きな部屋が割り当てられています)。宋代青磁から明代の青花、清代の豆彩や粉彩まで、「故宮クラス」の逸品揃い(実際、台北の故宮で開催された汝窯の特別展には、このコレクションからも出品されています(「国立故宮博物院(台北)」のページ参照)で、合計で約1700点もあるという一大コレクションです。従来はロンドン大学の施設で展示されていたのですが、2009年から大英博物館に貸し出され常設展示されるようになったものです。


<再訪(2014年夏)>

       
"Enlightenment" Section


 今回の訪問で、英国陶磁器の新たな展示場所を見つけました。1階(Ground Floor)の正面から入ってすぐ右手、部屋番号1という長大な部屋(本当に広い)です。(見つけやすい場所ですので、これまで見落としていたことはないように思いますが。実際、以前訪問した際に購入した本博物館ガイドブックの中の展示室案内には、この部屋についての記載がありません。)この部屋は、テーマ別セクションの一つで、"Enlightenment(啓蒙)"と名付けられています。壁面全体が背の高い本棚のようなの展示ケースになっており、部屋の中央には腰高の展示ケースがいくつも並んでいます。部屋の中はいくつかのテーマに分かれていて、それに沿った展示(かなり多様です)になっているのですが、18世紀の英国磁器は、主として"The Natural World"というテーマの中で展示されています。チェルシーのSir Hans Sloaneの名前で呼ばれる植物の描かれた皿をはじめとして、花や昆虫などが描かれている塩入れやカップなど、ロントンホールの葉をかたどった皿、ダービーの鳥が描かれたポーマード入れなどを見ることができます。


<本博物館コレクションに関する出版>
- R.L. Hobson "Catalogue of the Collection of English Porcelain in the Department of British and Mediaeval Antiquities and Ethonography of the British Museum" (1905)
- Trustees of the British Museum "Bow Porcelain 1744-1776" (1959) *この本は他の博物館の作品も含みます。
- Aileen Dawson"The Art of Worcester Porcelain" (2007)
- Trustees of the British Museum Chinese Ceramics Highlights of the Sir Percival David Collection" (2009)


(2006年4月執筆。2012年2月、2014年8月更新)