コラム
 
  このコラムは、ESIの七人の理事たちが順に担当、それぞれに関心事や話題を提供します。
各理事のプロフィールは「Whatユs ESI?」をご覧ください。

最新号

Column Back Number
1.NPO「サンタフェ研究所」の活動戦略 田中三彦
2.「共生社会への扉」 伊藤英紀
3.「中医学と薬草」 小祝慶子
4.「わらじを百足つくりました」 赤羽金雄

 
「中医学と薬草」 小祝慶子
 

 今年(2003年)の夏は、梅雨が長引いて、夏らしいカラッとした日が本当に少なかった。子供達を連れてプールに行っても、空には雲がかかっていて、外気温も低く、ブルブル震えながら泳いだ。長野県に住む私たちにとっても例年にない涼しさに、暖をとりたくなり、母が薪ストーブを焚いてくれた日もあった。雨が多くて、日照不足のこんな天候だったから、畑のトマトやきゅうりなどには病気が入ったところが多く、光合成も十分になされず、野菜の味は淡白で甘さもイマイチ…。果 樹でも、桃は特に、甘さがのらなかったうえに、傷みが早く、果樹農家さんは大変だったらしい。

 私は、現在、ある中医大学日本校の2年生に在籍し、日々、人の体の状況や病気を陰陽五行論に基づき分析し、弁証していく勉強をしている。そんな私には、前述の桃もトマトもきゅうりも「湿邪」にやられた状態にみえてしまう。梅雨の時期(五行論でいうと「長夏」)が長引き、長夏の五気である「湿」が植物に溜まり続けたための浮腫症状だ…などと考えてしまう。だから、水っぽく淡白な味のうえに、薄くなった細胞壁からは病気が侵入…。そのうえ、今年は、8月上旬になっても天候の回復がなく、浮腫が続いたため、その植物体の気の巡りも悪い状態となり、水湿停滞し、湿痰ができ、そこから傷みがはじまっていったのだろう…などと、ついついこんな分析をしてしまう。

 こういう桃やトマトの症状は、植物に限らず、私の身のまわりの人達の中にも結構あった。例えば、風邪をひいても、いつもなら数日で治ってしまうのに、今年はなぜだか胸の奥のあたりにからむような痰があり、数週間経っても咳が残っているという人。足がむくんで、体がなんとなくだるい人。いつものようなやる気が湧いてこない人。食欲がおちた人…など。中国医学を勉強しはじめて、まだ2年の私だから、正確な分析はまだまだであるが、これらの症状は、もともと共通 した原因によるもので、桃やトマトと同じく、「湿邪」が体に入ってとどまってしまったことによる症状だと思う。湿邪の性格は、重くべったりとしていて、滞るうちに濁りやすい。そのため、例えば、その「湿」が肺にとどまると、熱により湿は濃縮され濁り、熱痰となり、粘稠な痰がからむ咳が残ってしまう。また、その「湿」が胃腸にとどまると、湿が胃腸の気の流れを阻害し食欲不振となる。「湿」が四肢の皮下組織に停留すると、体はだるく、足はむくみやすくなる。

 だから、この時期、体の中に滞りがちになる湿は、できるだけ体から出してしまうように配慮する必要がある。湿を取り除く方法は、いろいろあるが、今年我が家でとった方法を少し紹介してみたい。長野の田舎にある我が家のまわりには、湿を取ってくれる、利水消腫解毒作用をもつ薬草や作物が身近にたくさん育っているので、その薬草の力をかりて、こんな簡単な薬膳をつくってみた。

A) スベリヒユ(生薬名は、「バシケン)のにんにく炒め
【作り方】1)畑の畝間あたりに生えている新鮮なスベリヒユを採ってくる。
     2)さっと洗って、適当に切る。
     3)にんにくはみじん切りにしておく。
     4)(2)をゴマ油でにんにくと一緒にさっと炒める。
     5)最後に塩をふる。
 ちょっとヌルッとして(「滑りひゆ」だから)酸味も少しあるが、おいしくて子供でも食べられる。
 これにより、利尿効果があり、顔や手足のむくみが取れる。

B) ドクダミ(「魚腥草(ギョウセイソウ)」「重薬(ジュウヤク)」「十薬(ジュウヤク)」)のお茶
【作り方】1)採ってきたドクダミはさっと洗い陰干しにしておく。
     2)それを適量、煎じて飲む。
     3)ドクダミの独特な香りがあって飲みにくい時は、玄米や黒豆をホウロクで炒って、
       それを一緒に入れて煎じる。香ばしくて飲みやすいし、黒豆の利尿効果 もあるので
       相乗効果がある。
 麦茶のかわりに、このドクダミ茶を飲めば、利尿効果も解毒効果も得られる。

C) ハト麦(「ヨクイニン)のおかゆ
【作り方】 1)米と一緒に適量のハト麦を入れ、水を加えて土鍋でコトコト煮る。
ハト麦は煎じてハト麦茶にして飲むのもおいしいけれど、おかゆにすると、食欲不振の時に、胃腸に負担をかけないうえに、湿を取り除き、清熱排膿してくれる朝食としてぴったり。

D) トウモロコシの毛(「玉米鬚(ギョクベイジュ)」)入りおかゆ
【作り方】 1)畑のトウモロコシの先についているトウモロコシの毛の傷んでいない部分を採ってき         て、適当に切る。
      2)ある程度煮たおかゆに(1)を入れ、さらにグツグツ煮る。
トウモロコシそのものにも、利尿作用、食用増進等の効果があるが、その毛に利尿作用、血糖を下げる作用などがある。

 

 こんな料理を、子供達と一緒に作るのはとても楽しい。「こんな草を食べるの?」と目をまるくしていた子供達も料理して実際食べてみると、「おいしいね。魔女のお料理みたいだね。」と、うれしそうだった。そして、その薬草の力のおかげだったのか、私たち家族はみんな元気に夏を過ごせて、一石二鳥の効果 があった。

 畑の野菜はもちろんのこと、その畑や山野に自然に生えてくる「雑草」とされるもののうちには、かなりのつわもの達がいる。彼らは、私たちの体に必要な立派な「生薬」だ。ESIランドを、先日、歩いたときにも、生薬になる多種多様の草木が群生していた。たくさんあったのが、オオバコ。これは、中薬名で「車前草(シャゼンソウ)」、その種は「車前子(シャゼンシ)」と称され、清熱利水(湿熱の水腫を治す)・滲湿止瀉(暑温狭湿の嘔吐・下痢を治す)・化痰止咳(肺に滞った痰湿熱を取り咳を止める)等の効果 を持つ代表的な中薬だ。「八正散」とか「五淋散」という方剤(漢方薬)に、車前子(オオバコの種)は多く使われている。オオバコの葉も干しておいて必要な時に煎じて飲めば、利尿効果 (湿を取り除き尿として排泄させる作用)がある。ESIランドには、その他にも、スベリヒユ(「バシケン」解毒消腫作用)、ナズナ(「薺菜(セイサイ)」清熱利水作用)、ゲンノショウコ(「ゲンノショウコ」整腸作用)、アカザ(「藜(リ)」解毒作用)、マムシグサ(「天南星(テンナンセイ)」解毒消腫作用)なども群生していた。

 じゃがいも・トマト・ピーマンなど畑の野菜だけでなく、ESIランドは、その土地の人に、その時期必要となる生薬をそっと育む生命力に溢れる自然薬草園そのものであった。これからも勉強を重ねながら、四季折々の自然薬草園なるESIランドを訪ねてみたい。それぞれユニークな個性をもつ薬草達が、かくれんぼをしているかのように、自分を見つけてもらえる時を、そっと待っているかもしれない。そして、彼らとの出会いを通 して、私たちは、自然と調和・共存しながら癒し癒される知恵に、より深く気付かされることになっていくことだろう。 。