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ダービー 山羊頭部の取っ手が付いた壺(1774-84年頃)
A Derby Vase with Goats Heads as Handles Ca.1774-84

 

 

 大型の杯の形をした壺である。厚手の素地によるがっしりとした作りで、用途はワイン・クーラーかもしれない。蓋が付随していたかどうかは不明である。類似の作例は知られていない。しかし、山羊頭部の取っ手、それに本体下部や台座部分の浮彫り模様は、チェルシー・ダービー期のダービー作品であることを強く示しており、裏面の4か所にはダービー特有の明瞭なパッチマークもある。

 エナメル絵付けの図柄は、菊紋のついた赤地部分と様式化された梅や菊が描かれた白地部分とが交互に配された柿右衛門風の図柄で、一般に「スカーレット・ジャパン(Scarlet Japan)」と呼ばれているものである。ウースターが好んで描いた図柄であるが、ダービーでも用いられた(ダービー版では、白地部分には中国風人物と植物を交互に描いたものが多いが)。チェルシー・ダービー期の柿右衛門風図柄としては、他にも「ジャバウォッキー(Jabberwocky)」(これもウースターの図柄であるが)などがある(ダービー「CD1」参照)。また、日本風の図柄ということでは、後に皿向けの図柄番号の3番が与えられた伊万里風図柄(ダービー「D3-7」参照)も、この時期に既に描かれていた。ただし、そうした日本風図柄(あるいは、それに限らず東洋風図柄全般)が本品のような新古典主義の壺に描かれた例はあまり見ない。

 裏面には、数字の「52」が刻まれている。これは、チェルシー・ダービー期(あるいは、それ以降)の壺に付けられた型番だと考えられる。ダービーは、1770-74年の期間に80種類近くの壺を集中して導入し、ロンドンに販売店を構える1774年頃にそれらの壺に1番から順に一斉に型番を振ったのではないかと見られる。52番はこれまで知られていなかった型であるが、この1770年代前半に導入されたものの一つだと考えられる。ただし、本品自体の製造年は、型番が刻まれている以上、1774年頃以降ということになる。(ダービー「D2-8」「D2-9」「D2-10」「D2-14」「D2-15」「D3-16」を参照。)


高さ(H):24cm

マーク:裏面に刻んだ「52」。裏面にパッチマーク。
Marks: Incised <52> on the bottom. Patch marks on the bottom.

参照文献/References:
- John Twitchett "Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide" Appendx II No.2 (p.270)
- Gilbert Bradley "Derby Porcelain 1750-1798" No.107 (p.160)


(2012年2月掲載)