なお、この型の壺の知られている作例(下記参照文献)は、いずれもチェルシー・ダービー期より後のもの(恐らく1790年代。場合によっては1800年代初めのものも)である点も興味深い。
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ダービー 取っ手付きの壺(1790年頃)
A Derby Vase with Handles Ca.1790
下部をすぼめたビーカー型あるいは逆円錐型とも呼ばれる形の壺である。左右にスクロールした取っ手が付けられている。内側に蓋を乗せるための段差があり、穴あきの蓋(紛失)が付属していたはずである。用途に関してはポプリ入れではないかとされてきたのだが、そうではない可能性が高そうである。1774年にダービー窯のロンドン店舗が開設された際の商品カタログに、以下のような記載がある。
97 ペアの深紅色のダイスカップ型フラワーポット、穴のあいた取り外せる平らな蓋つき、二か所の金枠内に風景画の装飾。高さ6インチ(注:約15cm)
98 同上、シー・グリーン色。高さ6インチ。
フラワーポットとは花枝を差す容器のことで、ボウポット(bough pot)とも呼ばれる。ダイスカップ(サイコロ壺)型とあるが、これはゲームなどで使うサイコロを入れて振る小型のカップのことで、一般にビーカーかバケツのような形をしている。穴のあいた取り外せる平らな蓋という点も含めて、この記述は本品の形状に適合するのではないだろうか。(ただし、高さは若干異なる。複数のサイズがあった可能性はある)。
裏面に「N77」と「*」が刻み込まれており、この形が型番77番であること、本品がリペアラーのアイザック・ファーンズワース(Isaac Farnsworth)の手によるものであることが分かる。1770年代初期に壺類のための型番制度が導入され(ダービー「D2-8」、「D2-9」、「D2-10」、「D2-14」、「D2-15」、「D2-17」、「D2-18」、「D2-19」、「D2-20」、「D3-17」を参照)、型番100番前後までは(「金の錨」マークのついた作品が現存していることから)チェルシー・ダービー期(1770-84年)のうちに導入されたと見られる。そして、上述の推論が正しければ、少なくとも77番までは1774年までに導入されていたということになる。
このように、本品はチェルシー・ダービー期に導入された型の一つであるが、実際に製造されたのはそれよりかなり後のことである。裏面のpuce(紫がかった色)のマークは、1784年に導入されたものである。裏面の左下の高台内側に同色で「3」とあるのは、金彩師ウィリアム・クーパー(William Cooper)の番号である。図柄番号の記載はないが(壺類には図柄番号は振られなかったものと思われる)、本体上部に描かれた横に連なるバラ絵は、恐らくウィリアム・ビリングズレイ(しかもかなり熟練した後の)によるものであろう。
なお、この型の壺の知られている作例(下記参照文献)は、いずれもチェルシー・ダービー期より後のもの(恐らく1790年代。場合によっては1800年代初めのものも)である点も興味深い。
高さ(H):12cm (4 3/4 in)
マーク:裏面に暗褐色で「王冠、交差するバトンと点及びD」及びマーク左下の高台内側に数字の「3」。裏面に刻んだ「N77」及び「*」。
Marks: <Crown, CrossedBatons&Dots and D> painted in puce on the bottom. Numeral <3> painted in puce on the foot rim to the left under the mark. Incised <N77> and a <*> on the bottom.
参照文献/References:
- John Twitchett "Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide" p.252
- Anthony Hoyte "The Charles Norman Collection of 18th Century Derby Porcelain" P.24
- The English Ceramic Circle "English Pottery and Porcelain Exhibition Catalogue 1948" No.324
- R.L. Hobson "Catalogue of the Collection of English Porcelain in the Department of British Mediaeval Antiquities and Ethnolgraphy of the British Museum" III.17 (Fig.52)
(2011年1月掲載、2011年2月更新)