以前から使ってきたアンプ(SansuiのAU-D607X DECADE)とスピーカー(DENONのSC-700)を友人に譲り、筆者と同じようにPCから再生する環境がまたひとつ増えた(彼女にはCD再生環境がPCしかない)。とりあえずはPCに搭載されているサウンドデバイスにアンプを接続し、それなりに使えてはいるのだが、どうも筆者としては納得できないものが残っている。一般にマザーボード搭載のAC97デバイスなんて再生環境としてはあまりも貧弱だ。アンプやスピーカーの性能が勿体ない・・・。それならいっそ(筆者のような本格的なオーディオデバイスではなく)簡単なUSB再生デバイスを付けてみたらどうなるだろう。取り扱いが簡単で音質が大きく改善されるのなら、PCオーディオを普及させるために効果があるに違いない。まずは聴いてみよう。
そんなこんなで実験材料の調達にかかる。候補は1万円前後の24bit48kHz以上のUSB再生デバイス。一般的なRCAか3.5mmミニジャックを装備している必要がある。いろんなジャンルのメーカーから発売されているが、出来るだけ本格的なオーディオデバイスを作っていて信用できそうなメーカーから選ぼう。ざっと並べてみるとこんな感じだ。
中でもより安価でよけいな操作や端子がなく簡単に使えそうなのはM-AUDIOのTransitUSBとEgo SystemsのOPTOPlayUSBあたりだろう。前者なら、入力も可能でASIO対応とよりいいのだが、何れも売れ筋ではないらしくものがない。梅田や日本橋界隈を探して見つけてきたのが後者。某店にて税込み\6,120円。
接続するとすぐ使えるようになる。あとは出力先を切り替えるだけ。問題はボリュームコントロールがWindows標準で、まともなオーディオインターフェイス(特にHammerfallのそれは完璧)に慣れた筆者にはあまりに頼りない。それでも、普通Windows使っている人はこれが当たり前なのだから、これはこれでいいのだろう。
注意が必要なのは、本当に再生しかできないこと。「オンボードデバイスのLine-INがあるからいいや」と思っていても、オンボードデバイスに入力したものはオンボードデバイスからしか出力できない。日常的に入力するデバイスがないのならいいが、TVキャプチャなどを使っていたらアナログ音声の場合もあるので注意が必要だ。くれぐれもオンボードデバイスのLine-INが埋まっていないことを確認してから購入してほしい。
音質の方は、Accuphase E-308とJBL 4318で聴いてみた限りさほど悪くない。もちろんHammerfallと比べて解像度は格段に落ちていて、音楽としての魅力も削がれている(ピアノなどで顕著)のだが、オンボードデバイスのように聴けない音ではなく、普通に流している分にはさほど気にならないほどのレベルだ。
裏付けを取るためにRightMark Audio Analyzerでデータも取ってみる※注。周波数特性は素直で、高域が10kHz以上で若干落ちるのみ。ノイズは-91dBと並。ノイズに隠れて見えにくいものの、高調波ひずみは0.0028%と優秀だ。気になるのは混変調ひずみで0.018%と目立つのだが、0.1%近い値を示すことの多いオンボードデバイスと比べたら十分優れている。一般的なアンプでは0.01%程度の仕様のものが多いから、サウンドデバイスがこの値では見劣りする。この辺が解像度が落ちて感じる部分だろう。右図は混変調ひずみの比較グラフ。60Hzと7kHzを使っているが、C-MediaやRealtekのAC97デバイスに不要なピークが多いこと、OPTOPlayに低音の雑音が多いことがわかるだろう。リファレンスにしたHammerfall RPMの優秀さは言うまでもない。
※入力回路はないので、入力にRME Hammerfallを使っている点は注意されたい。ここに示したのは24bit44.1kHzでの値。
総合的に見て、本格的なオーディオデバイスとは勝負にはならないけれど、間抜けなオンボードデバイスとは雲泥の差があり、1万円以下のサウンドデバイスとしてコストパフォーマンスは高い。ドライバのインストールすら不要で、使い勝手がいいのも魅力だ。最新の本格的なオーディオ機器での再生にはちょっと役不足だけれども、旧式だったりミニコンポ程度なら充分使い物になるような気がする。PCオーディオをローコストで気軽に始めてみる向きにはお勧めのデバイスだと言えるだろう。