前回のレポートに追記が多くなってわかりづらくなってきたことや、某巨大掲示板で取り上げられたこともあり、音質についての問い合わせが多いので、前回の追記も含めて再生品質がらみを中心に情報を再整理しておく。
これはQuickTimeのコントロールパネル設定で回避が可能だ。オーディオタブのデバイスの項で、セーフモード(waveOutのみ)のチェックを入れれば、HDSP Hammerfall MultifaceII(以下Multiface)でも再生可能になる。それでも、優先するオーディオデバイスに出力されるので、WindowsMediaPlayerやWinAMPのように音楽再生だけ別の装置というわけにはいかないから、筆者的に使えない点は変わらない。
再生データのサンプリング周波数が、CD由来の44.1KHzであっても48KHzにリサンプリングされてしまうことがあるのは前回述べたとおりであるが、その条件を再調査してみた。出力先はONKYO SE-90PCI。他の再生をしていない条件で、QuckTimeのコントロールパネルでハードウェアがサポートする出力フォーマットに44.1KHzを指定した後にiTunes5を起動した場合や、VIA Vinyl Audio Control Panelでサンプリングレートの自動チェックを外して44.1KHzを強制した場合に、リサンプリングなしに音楽再生ができる。それ以外の場合はリサンプリングがかかるようだ。
リサンプリングが発生した場合の歪みについて、iTunes5からの出力先をMultifaceに設定し、内部ループバックで録音する形でRightMark Audio Analyzer 5.5(以下RMAA)で測定してみた。
右上キャプチャのように、1KHzの信号でも高域に0.01%の歪みが入ってくる。当然周波数が上がれば上がるほど歪みは増え、6KHzを超えたあたりからは0.1%以上となり、10KHzの場合で0.17%と極悪オンボードサウンドかのような挙動を示す。ここまで来るとハイエンドオーディオ機器でなく、筆者のようなちょっとましな程度のスピーカー(JBL Control Monitor 4318)を使っている場合でも何かおかしいことが聴いてわかる。参考までに周波数特性はほとんど変わらない。
リサンプリングのない場合でも、何となくWinamp5.1の方がすっきりした音なので、念のため調べておく。右のキャプチャ上に示したように、iTunes5には変な歪みが入っていることがわかるだろう。それでも絶対値も小さく、音質に影響するものではなさそうだ。推測だが、Windowsのミキサーを経由することによるものではないだろうか?筆者の持ったすっきり感は、iTunesに対する不信感のプラシーボ効果のような気がする。
これは筆者が音楽を聴いた限り特に悪いようには思わなかったのだが、念のために調べてみた。RMAAのテスト信号をLame3.96で256KHzCBRにq=2でエンコードしたものをiTunes5で再生し、これをMultifaceの内部ループバックで録音する。比較対象として、iTune5で再生したファイルをCDex1.51でデコードしたものをRMAAに取り込んでみる。周波数特性は全く同じで、歪みは上記のiTunes5由来のものが見られるのみ(キャプチャ右の下)。デコード品質は全く問題がなさそうだ。
以上整理すると、リサンプリングがかからないような条件で使用した場合、iTunes5の音楽再生品質は特に大きな問題がない。問題はリサンプリングで、これを回避するための条件が、筆者にとっては厳しい。コントロールパネルでの設定は何れもDVD再生時の音声(48KHz)を妨げるものだからだ。優先するオーディオデバイスに出力される件とあわせて、使えない点は変わらない。オーディオ用に特別なデバイスを用意しておらず、PCの横に置いた小型スピーカーで再生するなど、リサンプリングの音質が気にならないような向きには、導入が簡単なこともあり、音楽再生ソフトの有力な候補のひとつになりうるだろう。
昨秋買った同社のHammerfall DSP Multiface II(以下Multiface)が1月リコールになってしまった。筆者としては同じ製品で交換してくれるとありがたいのだが、どうも製品がなくて返品&返金になるらしい。しばらく経過を見ていたのだが、いつまでも問題がある(とされている)製品を使い続けると、発火などのトラブルがあったときに分が悪い。
代替方法を色々考えたのだが、品質は落としたくない。特にソフト的な使い勝手はRME社以外で実現するのは難しそうだ。アンプのそばに設置するには、少なくとも入出力各8チャネル(ステレオで4つ分)をAD/DA変換するボックスが外部にある必要がある。そうなると、Fireface 800(以下Fireface)しか残らない。価格が\177,000(サウンドハウス税込)とMultifaceで十分な筆者にとってはコストパフォーマンスが悪いのだが、他社の下手な同等品を買って後悔するくらいなら、安心代として7万円払うのも悪くないだろう。そう考えて、3月始めに発注をかけた。当初は2週間の納期だったのだが、急きょモノが余ったらしく、1週間で届いた。
今回もAccuphase STEREO INTEGRATED AMPLIFIER E-308とJBL Control Monitor 4318で聴いてみたが、Multifaceとの差は筆者の耳では聞き分けられない。RMAAで特性を測定してみると、Multifaceで高かった3次高調波が10dB以上落ちているのだが元々0.0023%だからそれが0.0010%になったところで、わかるはずもない。ノイズレベルも全面的に数dB落ちているが、これも-140dB近辺での話だから、CDの録音に埋もれている-100dB程度のノイズと比べたら意味がないだろう。もちろん、音質のよいヘッドフォンアンプもあるし、サンプリング周波数も192KHz対応になっているから、普通にオーディオインターフェイスとして使うには(ハイエンドオーディオにこだわりがない限り)十分すぎるものだ。
ライン入出力の回路数はMultifaceと同じだが、マイクアンプが4回路あって(内2回路はラインと切り替え)オーディオ用途としては測定などにそのまま使える。また、入力1はハイインピーダンスのギターアンプとしても使える。デジタルでは、ADAT(光)が入出力各2あって、入出力チャネル数がMultifaceより各8増えているけれど、これも今すぐ筆者に役立つものでもない。はっきり言ってオーバースペックだと思うけれど、この手の機器はこの程度の能力があった方が、使い回しの点ではいいだろう。サイズは1Uフルになっていて、奥行きも伸びているから、それなりに邪魔になる。その分電源回路も内蔵してくれていたりするし、何より巨大なオーディオ機器と比べたら、まあ可愛いものだ。天板に内部の配線が記載されているのが、Rolandのオーディオインターフェイスみたい。
Multifaceと同様にFirefaceもラインはTRSのバランス入出力を持っている。接続方法はMultifaceと同様にaudio-technica AT5A81などがメインだが、実はこのケーブル先日分解してみたら高純度OFCとか言いながら心線が極端に細い。同じ銅なら質より量。太い心線でシールドも高密度なカナレのL-4E6Sケーブルを多めに買ってきて、標準プラグのF-15やF-16とノイトリックスのXLRコネクタやピンプラグF-10を使って、よく使うところを置き換えつつある。
同じことを何度も書いてもしかたないので、Multifaceとの違いを主体に説明する。Multifaceのレビューをまだ読んでおられない方は、まずこちら(当サイト内ですが、あえて別窓にしています)を御覧いただきたい。
MultifaceからFirefaceに付け替えて入れ直したのはミキサーを含めたドライバだけ。DIGICheckはそのまま使える。ドライバはWDM対応になっていて、Windowsの音が普通に出せる。逆にそれが邪魔だと思っても、一覧から消せないのはうれしくない。もっとも、WDMなのでWindowsの操作音などを出力しても、リサンプリングして再生中の音楽のサンプリングレートで出力するみたいなので、再生音が変になる被害はない。
Hammerfall DSP MixerがFireface Mixerと名前が変わって、右上のように使える。チャネル数が増えて、また画面が大きくなっているほか、若干機能も変わっているが、操作性という面では問題ないだろう。重要な機能として、ミキサーの設定をフラッシュメモリに保存することが出来るようになっている。電源を入れたら保存した状態で起動するので、PCが使えないシチュエーションを想定して保存しておくとよい。また、出力のデフォルトが-6dBから0dBに変わったとか、ループバックしたときの入力の表示が、ループバックしたデータでなく真の入力に変わったとか、些細な変化がいくつかある。唯一問題があるとしたら、従来のミキサーだと同じDSPシリーズで共用できたのに、Fireface専用になったこと。右のFirefaceMatrixも名前が変わった以外違和感ない。ただ、Outputの設定が各入力(Input,Playback)に影響しないように見えるので、慣れないうちは気持ちが悪い。
設定用のプログラムはFirefaceSettingとなっていて、これも専用品になっている。ここから、フラッシュメモリに設定を書き込んだり読み出したり出来るので、使いやすい状態で起動することが出来る。DSPシリーズと違うのは、入力が兼用となっている1,7,8の各チャネルの設定と、他の機器との併用も考慮したFireWire 800(IEEE1394b)の帯域を制限するためのチャネル数設定(さすがにPlaybackを28チャネルフルに使う場合は少ないとの配慮だろう)あたりだろう。マイク端子のファントム電源、入出力のレベル設定もこちらで行う。
面白いのは2番目のタブにある再生速度の設定。放送などで、曲の長さを微妙に調節するなどの用途のようだ。たとえスタジオで使うにしても、アマチュアにはまずいらないだろう。
はっきり言って高い。今回はMultifaceがリコールになったので代替としてやむなく購入したが、MultifaceIIで機能的に充分なのなら、ぜひそちらをお勧めする。FireWire 800(IEEE1394b)で接続可能なこと、WDM対応、マイクアンプの搭載、入出力ADAT各1チャンネルの増加では割が合わない。もちろん、デスクトップPCとノートPCで併用する予定だったり、設定のフラッシュメモリ格納や電源の内蔵による使い勝手向上、筐体が大きいことによる信頼性や若干の音質的メリットなど、質的な面での向上に大きな価値を見いだせるのなら、プラス7万円も惜しくないだろう。