マイクロソフトを設立したビル・ゲイツがこんなことを言いました。「昔、家の窓から見えるのは窓の外の景色だけだった。それが、テレビの登場で世界中の風景が見えるようになった。そしていま、インターネットの普及によって、家の窓から世界中に自分の姿をリアルタイムで見せることができる」
自分の意志で世界のどの地域とも瞬時にアクセスできるインターネットの普及は、われわれの生活を大きく変えつつあります。ビジネスの世界はもちろんのこと、ふだんの暮らしのなかにも広く浸透しています。
こうしたIT環境のなかで、情報量は急速に増加しており、しかも利用者からは高速伝送が求められています。これに対応するため、光信号による大容量の情報を送受信できる広帯域通信網として、光ファイバーの敷設が進められ、県庁所在地クラスの都市では6割から7割、10万人以上の都市でも4割程度の敷設率で、光ファイバーは家庭の近くまで近づいています。
■【Fiber to the home】のイメージ ※光部品に光導波路が使用されます。
この光ファイバーを各家庭まで引き込もうとしているのが「FTTH(Fiber
to the home)計画」です。これを実現するためには、WDM(光波長多重伝送)装置などが必要になります。そして、この装置に使用する安価で高性能な、汎用性のある光導波路の開発が求められてきました。
光導波路とは、電気回路中を電子が流れるように、屈折率の違いを利用して、基板上に形成した回路に光信号を導くことができるようにしたもので、いわば、光の配線板。屈折率の異なる物質の界面に光が当たると全反射することを応用し、屈折率の高い回路(コア)を屈折率の低い周辺部(クラッド)で包み込むことにより、コアに入射した光信号を全反射の繰り返しで伝播させるものです。原理的には光ファイバーと同じですが、光ファイバーが繊維状なのに対し、光導波路は平面
構造になっています。
- 光で光の回路をつくる感光性ポリシラン「グラシア」
日本ペイントは、超先端電子技術開発機構(ASET)と日立電線株式会社の協力を得て、伝播信号の損失が少ない光導波路用の新材料とその形成方法を開発しました。
“光で光の回路をつくる”感光性ポリシランは画期的な材料として注目を浴びています。
当社では十数年前からポリシランの研究を続けており、ポリシランの特異な光学特性の応用について検討してきました。そのなかで、紫外線露光によりポリシランの屈折率が大きく変化する現象を利用し、光導波路の形成が可能な感光性ポリシラン「グラシア」を完成させたのです。これに、日立電線と共同で開発したプロセス技術を組み合わせて、時代のニーズにマッチした導波路形成用の新しい材料として市場導入を図ります。
感光性ポリシラン「グラシア」の商品化は、超高速光通信システム網の普及に弾みをつけるとともに、国家プロジェクト「e-JAPAN重点計画」(2005年をめどに、3,000万世帯に高速通信を、そのうち1000万世帯には超高速通信を実現する計画)の推進に大いに貢献するものと期待されています。
■光導波路の作製方法比較
フレキシブル基盤上(右)と シリコンウエハー上(左)での試作品
グラシア導波路の断面写真
1.紫外線露光した部分のみ屈折率が変化する現象を応用するため、工程が単純になる。
2.300〜370度の熱処理により、伝播信号の低損失化(0.03dB/cm)が期待できる。
3.2の熱処理を施すことにより、はんだ耐熱性を持たせることができる。
4.オールドライプロセス/低温プロセスのため、大面積化やフィルム化が可能。