同色対談―夕陽の思い出がサンライズレッドを生んだ【1】
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-塗装技術に合わせた塗料、メンタルな欲望を満たす塗料
松岡ところで、技術畑のエースとの呼び声の高い方が社長になられたわけですが、ペイントと技術というのは、どのあたりから考えていけばよいわけですか。
藤嶋技術的な側面からペイントというものをとらえると、完全に化学、ケミカルの世界の話になります。
松岡ああ、やはりそうですか。
藤嶋はい。ただし、化学の知識と技術を研究し、応用して多くの色をつくっていくなかで、必ず加えなければならない要素となってくるのが、人間のメンタルな欲望を満たすという目的です。
松岡と申しますと?
藤嶋例えば、金という色。中国では昔から金色が長生きのもとになる色だと信じられてきました。同じように、中世のヨーロッパでは、一時期、卑金属を貴金属に変える錬金術の研究が盛んになりました。これなども、人間の金への憧憬を表しています。
松岡技術的にはケミカルだけれども、そこに人間のメンタリティーが深く食い込んでくる。面 白いなぁ。
藤嶋化学や科学は人間の欲望によって発達してきたといってもいいでしょう。
松岡人が好むトレンドな色と、それをつくり出す技術というのは、必ずしも接近しているわけではないのですか。
藤嶋いや、その2つは両輪でなくてはいけません。ペイントに関係する技術のなかで最も重要となってくるのは、実はコーティングの技術なんです。
松岡色をつくる技術ではなく、塗るほうの技術ですか。
藤嶋そう。塗料産業のなかには、材料である塗料をつくる人と、それを塗装する人がいます。もちろん、どちらが欠けても成り立たない業界なのですが、とくにカギとなってくるのはコーティングのほうです。
松岡たしかに、素晴らしい色彩の塗料が完成しても、塗るのがヘタだったら意味ないですもんね(笑)。
藤嶋だから、どちらかというと、コーティング技術に合わせて塗料をつくっているような面 もあります。
松岡塗装化学と塗料化学というのは、その分野へのアプローチが微妙に違ってきますよね。最初の頃は、これら2つの化学を両立させることが難しかったのですか。
藤嶋簡単ではありませんでした。たとえば、コーティングでは、熟練したプロの仕事と不慣れな人の仕事では、その差は歴然ですね。
松岡ちょっとしたペンキ塗りでも、素人がやると、どうしてもムラができますからね。
藤嶋いまは塗装の工程も機械化されていますが、塗料のほうも塗装技術の進化に合わせて変わってきています。
松岡クルマの塗装システムも、昔に比べると、より速くより綺麗に仕上がるのでしょうね。

藤嶋例えばクルマの塗装は、おおむね、表面処理、下塗り、中塗り、上塗りという具合に進んでいきます。ところが、こうした何段階もの工程を経ても、私どもの新車用の塗膜は、わずか0.1ミリです。この薄さであっても完全にコーティングできるよう、塗料にはさまざまな改良が加えられてきました。
松岡改良という言葉が出ましたが、これまでの塗料のイノベーションというのは、どのようなものがありましたか。
藤嶋漆のポッテリした何ともいえない奥行きのあるツヤを有機合成化学の技術で実現できないかという課題が昔からありました。1つの答というか、現在の塗料技術の型ができたのが昭和30年代です。
松岡欧米でもそうですか。
藤嶋そうです。同じようなものです。で、いわゆる熱を使った焼き付け型のもので、化学反応を起こさせる塗料というものが誕生しました。
松岡それまでは自然乾燥で。
藤嶋そうですね。経済成長が進んでクルマや家電製品が普及してくると、年間を通 じて同じぐらいの製品をコンスタントに生産・塗装しなければなりません。そうなると、どうしても熱の力が必要になってくる。
松岡人工加熱に耐えられて、なおかつ変色しない塗料をつくるわけですね。
藤嶋反応させてね。発色は顔料の時点で終わっています。こんどは、それを膜にする。刷毛で塗るような粘度では塗装できませんからね。そうなると、初めから高分子が使えないので低分子で耐久性をもたせる。
松岡要するに、焼き物が過熱されて発色し、完成するように、最初から熱を条件に入れて新素材の塗料を開発したわけですね。なるほど。それ以降、大きなイノベーションというのはありますか。
藤嶋それからは、ひたすら改良の歴史です。さらに質感の高い塗料が、改良に改良を重ねてつくられてきました。だいたい、現在までの30年間は、塗料にとって改良の時代といってもいい。
松岡ほう。ということは、もうしばらくの間は既存の素材を改良させることに専念し、大きな技術革新の動きはなさそうですか?
藤嶋いや、ここへきてペイント業界では、もう一度大きなイノベーションを起こそうという気運が高まってまいりました。それは、環境問題に対応した塗料の開発です。
松岡ははぁ、なるほど。いま、水性塗料などが話題になっているのは、環境のコントロールからきている?
藤嶋そういうことですね。だから、これからの塗料の技術開発競争は、どのメーカーの技術が環境に対応したものとしてスタンダードになるのか、という部分に焦点が集まっていくでしょう。
松岡スタンダードは、まだ決まっていないのですね。
藤嶋はい。おそらく、あと4、5年ほどで決まるのじゃないでしょうかね。



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