小島姫 第1話
「いっちゃうぞばかやろー!」

今日もお城には、小島姫の元気な声がこだましています。

いつも元気な小島姫は国中の人気者です。

能天気な人間は、人に好かれやすいんですね。

たとえまだらの金髪で、オバチャン顔の、ゴツイお姫さまだとしても。



小島姫は母親を亡くされて、継母っていうか、魔女の天山と、父親のヒロ斎藤、そしてお

城のみんなと暮らしていました。

お妃様は、毎日自慢の髪の毛を手入れしながら、鏡に尋ねます。

「壁の鏡よ、国中で一番人気があるのは誰?」

壁の鏡が答えます。

「ここではあなたが人気者。でも100倍人気の小島姫」

鏡はそう言うと、小島姫を映し出します。



小島姫は笑顔作りに余念がありません。満足のできるような笑顔ができると、次は物まね

に移ります。

無情にも、鏡はシューシュー言っている小島姫も、克明に映し出します。

「こ、小島姫めぇ・・・髪型と体型もかぶってるというのに、私の必殺技・モンゴリアンチ

ョップまで・・・。許せないわっ!」

お妃の立場にある人間のくせに、どうして必殺技なんか持ってるんでしょう。不思議です

ね。でも、一応魔女なのでいいんです。

憎悪に身をくねらせながら、お妃様は額に次々と爪楊枝を突き刺していくのでした。



継母の天山が、姫に対して日々憎悪を募らせていくのを、おバカさんな姫は全く気がつき

ません。父親のヒロ斎藤は、うすうす感づいているものの、内心面白がって傍観している

ありさまです。平和そうにみえるこの国も、王様一家の中に入り込めば、恐ろしいことに

なっているのです。

しかし、鈍感な小島姫はそんなことになっているのにも気付かず、日々人々にウケるため

のネタを練習しています。



ある日、お城で国中の貴族を招いてのパーティーが行われました。



人がたくさん集まると、とたんに張り切り出すのが小島姫です。人に好かれるように、喜

んでもらえるように、と、ものすごいハイテンションです。なにか、そうならざるをえな

い過去でもあるんでしょうか。



王様のヒロ斎藤と、お妃の天山が広間に入ってくると、既に小島姫のおかげで会場の空気

は出来上がってしまっていて、地味な王様はともかく、この日のために特注した、大きな

角のティアラをつけてドレスアップしてきたお妃様には、ほとんど誰も目を向けません。

皆、青春ハリケーンを熱唱する、国で一番太った橋本大公爵(この人ほど、大きいという

言葉が似合う人はいませんね。あと、デブって言葉とか。)の横で、オバチャン顔で、ニ

コニコ笑いながら踊る小島姫に釘付けです。



「いやあ、小島姫。あなたと過ごす時間が私は一番楽しいですよ。ははは。」

橋本大公爵が、熱唱し終えて玉の汗が浮かぶ暑苦しい顔を、小島姫に近づけて言いました。

小島姫も、自分の踊りがウケて本当にうれしそうです。

調子にのって、小島姫は得意の物まねを始めました。蝶野や平田、桂三枝など、わかりや

すい稚拙な物まねのオンパレードです。



会場の目は殆ど小島姫に釘付け状態でしたが、面白くないのはお妃様です。

この日のためにあつらえたツノも、誰の目にも入っていません。ちょっと前までは自分が

一番の人気者だったのに・・・お妃様はそう思いつつ、グサグサと額に爪楊枝を刺していき

ます。



会場の隅で、ネクタイのついた変わったマスクをつけた青年貴族、カ・シン男爵が、お妃

様ご立腹の様子を、楽しそうに見ています。

「小島姫とお妃様、面白いことになりそうだな」

そう思いながら、パーティーの様子を観察しています。そして、王様と目が合うと、訳知

り同士に特有の、目配せを交わすのでした。



「あら、お義母さま、今日は素敵なティアラをお付けになっているのですね。」

小島姫が、ようやくお妃様が会場入りしたことに気付いて、上気した笑顔で近づいていき

ます。

「小島姫、良かったですよ。踊りも、ものまねも。」

外ヅラの良いお妃様は、顔を幾分ひくつかせながらも、小島姫を誉めます。

「わたしもそのティアラ、欲しいわ。」

「あなたが大人になったらきっと似合うようになるから、その時にこれを譲ってあげまし

ょう。」

「お義母さまったら、意地悪。でも私、お義母さまの真似ができるようになったのよ。見

て見て!」

小島姫は、そう言いながらシューシュー言いはじめました。

会場に集まった貴族たちも、皆楽しそうにシューシュー言ってます。

怒りに卒倒しそうになるのを、お妃様は爪楊枝を額に刺しながらじっとこらえるのでした。



「わあ、お義母さま、すごいわ!爪楊枝が額に刺さってる!」

貴族たちも、久しぶりのお妃様の芸に、やんやの喝采です。

久しぶりに人々の視線を集められたお妃様は、機嫌を幾分直されましたが、小島姫の言葉

を聞いた瞬間、明確な殺意を抱くに至るのでした。



「私にも、その芸を教えてくださらないかしら?」



次の瞬間、お妃様の額の爪楊枝が矢のような勢いで飛び出し、小島姫の額にカカカッとい

う音を立てて突き刺さりました。

「わーい、できたできたぁ!お義母さま、ありがとう!」

バカだから、小島姫は痛みを感じていないようです。



小島姫の額から流れる血を見ながら、

お妃様は姫を亡き者にする具体的な計画を立てはじめましたとさ。


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小島姫本編         
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