小島姫第7話

「なあ男爵殿」

「何ですか王様?」

ここはお城の豪華なサロン。

カ・シン男爵と王様が、お茶を飲んでいます。


「いくら姫がバカだからといっても、絞め殺されたはずなのにあっさりと生き返る

というのはあんまりではないか?」

王様が、ソファに深々と身を沈めながら、あんまりといったらあんまりなことを、

男爵に言いました。

「王様、バカは風邪を引かないんです。なら、バカは容易に死なないということが

あってもいいんじゃないですかね?なにせ姫はバカですから。まあ、人気だけは大

変なものでしたが。フフン」

カ・シン男爵はそう言うと、湯飲みのお茶を一口、口にしました。

「ちょっとぬるいな・・・」

そう呟くと、続けて

「しかし、小島姫がこうも簡単に忘れ去られてしまうなんて、小島姫の人気という

のもたいしたことはなかったってことでしょうかね。しょせん一過性の人気。いな

くなったら人々はすぐに忘れてしまう。所詮、実力に裏打ちされていない人気なん

て、はかないものですよ。フフン」

と言うと、男爵は肩にかかるネクタイを煩げに背中にまわします。

「男爵、いくらなんでも私の娘なんだから、そこまで言うのはあんまりじゃないの

かね?まあ、本当のことだからしょうがないのかもしれんが。ははっ」

王様はそう言うと、男爵のほうをいたずらっぽい目で見るのでした。

「まあ、それはそれとして、お妃様がついに自らご出陣のようで。よっぽどの危機

感があるようですな。それとも、誰かに知恵をつけられたか。どちらにしろ面白く

なってきましたな。お妃様の悪知恵が勝つか、バカの生命力の強さが勝るか。なか

なかの見物です。」

「まあ、暇つぶしにはもってこいだな。しばらくは楽しめそうだよ。ははっ」

そう言うと、王様は、湯飲みにお茶のお代わりを注ぎます。

「どうだね君も?」

男爵は首を横に振ると、

「いえ、けっこうです。いよいよ面白くなってきそうですから、一瞬も目が離せな

いですよ。フフン。では失礼。」

そう言って優雅に一礼をして歩み去ります。

「お〜い、ちゃんと私に詳しく報告するんだぞっ!」

王様の声を聞いているのかいないのか、カ・シン男爵はネクタイを揺らしながらサ

ロンを後にするのでした。


カ・シン男爵は、サロンを出てうつむき加減に廊下を歩いていました。と、男爵の

足が止まります。廊下の向こうから近づいてくる黒い影。

「これはこれは、蝶野公爵ではありませんか。」

そう言って、優雅に礼をします。しかし、マスクの下の目は、公爵から片時も離れ

ることがありません。

「やあカ・シン男爵。」

蝶野公爵も、サングラスの下からカ・シン男爵を油断無く睨みます。

「男爵、貴方は最近王様と懇意のようですな。あの無口な王様と貴方、一体どんな

接点で意気投合することになったものか。ククッ。」

男爵は、公爵に先手を打たれて一瞬苦々しく思ったのですが、そのまま引き下がる

ような男爵ではありません。

「公爵殿、そちらこそ最近は随分お忙しいようですな。夜更かしは体に毒ですぞ。」

口元でしか表情を窺うことのできないカ・シン男爵、その唇の端が、わずかに上が

っていきます。

「夜更かしは昔からの習慣でね。いまさら変えられませんな。では失礼。」

蝶野公爵は、黒いトーガの裾を払うと、振り返ることも無く歩み去ります。

「フン、食えない男だ。」

カ・シン男爵はそう呟くと、早足で自慢の管制室へ向かうのでした。




「で、小島姫、なんで首を絞められて倒れていたんですか?」

ここは深い森の中、餅つき兄弟の小さな家の居間です。

食後のくつろぎの時間、高岩が小島姫に尋ねます。

「そりゃ、バカだからだろう。」

名無しの実も蓋も無いツッコミを無視して、高岩が続けます。

「玄関のドアを開けてはいけないと、言ったじゃありませんか。」

すると小島姫は、懲りた様子も無く答えます。

「だって、あんな素敵な飾り紐を見せられたら、あたしだって女の子ですもの、つ

いドアを開けちゃうわよ、バカヤロー!」

高岩は、姫のあまりの能天気さにうんざりしかけました。

「で、その飾り紐を売りに来た犯人は、一体どんな奴だったんですか?」

高岩が気を取り直して聞くと、

「そうねぇ、良く覚えてないんだけど、大きなカバンを持った行商人だったわね。

それくらいしか覚えてないわ。そうそう、やたらと大きな顔だったわねぇ。そうだ!

あのマダラのひもはどうしたの?あれで髪を結わえたら、あたしがますます素敵に

なるってものよバカヤロー!今すぐあたしの髪を結わえなさいよ!」

名無しが肩をすくめて、2階に上っていってしまいました。多分昨夜途中で止めて

しまったアイコラの続きとしゃれ込むつもりなんでしょう。

「とにかく!今度はドアを開けないで下さいよっ!その行商人は多分お妃様ですか

らね!わかりましたねっ!」

さすがの高岩もあまりの能天気さにたまりかねたのか、振り返りもせず2階へ上っ

ていきます。

小島姫はあまりのことにプリプリしながら、3人組があやとりをしているそのマダ

ラのひもを取り上げると、自分の部屋へ引っ込んでいってしまいました。

「まったく、小島姫も自分勝手だよなぁ。まあ、おもしろいからいいけど。」

タツヒトが言うと、コウとリュウもうなずきます。

「じゃあ、ドラマでも見ようか。」

そう言って、3人組は大画面のテレビでビデオを見始めます。

体育座りで画面に見入る3人組。

そして、ニラとドラえもんは、それぞれ競馬新聞とお菓子に没頭しています。


こうして、餅つき兄弟+小島姫の夜は更けていくのでした。



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