小島姫第4話


「すいませーん!」 小島姫は、叫びながら7つの人影の方へ駆けていきます。 「すいま・・・・・・ 『どうしました、おじょうさん?』 7つの影が、姫の方を振り返りました。 さすがの小島姫も、息を呑んでしまいました。 朝もやに煙る森の中で、黒パンツと黒シューズ、黒い膝当てだけを身につけたたくましい、 しかも無表情な男達が仁王立ちしていたからです。しかも、全員同じ顔です。 「あ、あ、あ・・・ 口をぱくぱくさせている小島姫に向けて、7人の男達が再び聞きます 『どうしました、おじょうさん?』 7つの声が、といっても、全員声も同じなのですが、少しずつ違ったタイミングで小島姫 に問い掛けます。 小島姫は、30秒ほど顔に貼り付けた笑顔もそのままに、目の前の7人の男達を見つめて 立ち尽くしていましたが、はっと気がつくと、目を輝かせて言います 「ね、ねえ、それ【分身の術】でしょ?」 姫は、目の前の異常な現象をにわかには受け入れられなかったらしく、自分の今までの知 識にソレを当てはめようとします。 しかし、それを聞いた男達は、ただ首を振るばかりです。そして、再度尋ねました。 『どうしました、お嬢さん?』 どこか不揃いな7人の問いかけに、さすがに小島姫も現実を受け入れざるを得ないという ことに、気がついたようです。 そうなると、小島姫は口から泡を吹きそうな勢いでまくしたてます 「あのはじめましてあたし小島姫です。悪い継母の天山に殺されそうになって、お城には もう戻れないし、一晩中森の中をさまよっていたの。恐ろしいけだものが出てきやしない かってものすごく不安だったんだけど、あなたちに巡り合えて本当に良かった。どうか今 日だけでもあなたたちのお家に居させてもらえないかしら。きっと迷惑はかけないって誓 うわ。お願い、あたしを助けて!」 立て板に水のごとくまくしたてる姫を見ても、男達の表情は変わらず、ただ腰に手を当て て仁王立ちしているだけだったのですが、しばらくして7人は輪になって相談をし始めま した。 もちろん姫は、あの笑顔を顔面に貼り付けたままです。 しばらくして、7人の代表らしき男が(といっても、全員同じ顔、同じ声、同じ体、同じ 服だったので、誰が誰だかさっぱり区別できません)姫の前に進み出てきました。 「困っているお嬢さんを見捨てるわけにはいかないですから、良かったら僕たちの家に来 てください。もしお嬢さんが良ければずっと僕らの家に住んでもらって構いません。」 男は、親切にもそう言いました。 「ありがとう!本当に助かったわ!こうなったらあたし、炊事でも洗濯でも掃除でも、な んでもやっちゃうぞバカヤロー!あたしこれでもお料理得意なのよ。お城のミス味っ子っ て呼ばれてたくらいなんだから!」 小島姫は、男達について、新しい家へと向かいます。 「ねえ、これからあたし達一緒に住むんでしょう?あなたたちをなんて呼べばいいのかし ら。良かったらお名前を聞かせてもらえないかしら?」 道すがら、小島姫は尋ねました。 すると、さっきの男達の代表らしい男が言います 「僕たちは餅つき兄弟と呼ばれています。」 「ふ〜ん、餅つき兄弟ねえ・・・って、そうじゃなくて、あなたたち一人一人の名前よ!」 小島姫が愛らしい唇を尖らせて言うと、例の代表から順に名乗りはじめました。 「高岩」 「タツヒト」 「コウ」 「リュウ」 「ドラえもん」 「ニラ」 「名無し」 小島姫は、必死に一人一人の名前と顔を一致させようとしましたが、どう見ても全員同じ なのであきらめました。 そうしているうちに、餅つき兄弟の家が見えてきました。7人の男達が住んでいるという のに、意外とこじんまりとした家です。しかし、森の緑の中に、白い壁と赤い屋根の、こ じんまりとした家というのも、なかなか似合っています。 「さあ、どうぞ。」 高岩がドアを開けて、姫を迎え入れます。 「おじゃまします」 小島姫はそう言うと、玄関で靴を脱いで、下駄箱に入れました。 餅つき兄弟の家は、基本的に和風のようです。 姫はとりあえず、短い板張りの廊下、すぐ左手のふすまを開けてみました。 そこは6畳くらいの和室で、真ん中にテーブルがある以外は何も無い部屋で、隅に押し入 れがあるくらいです。 小島姫が最初の部屋を見ている間に、高岩たちはみんな隣の部屋に行ったようです。 姫はふすまも閉めずに廊下へ出て、突き当たり左手のドアを開けました。 そこは20畳くらいの洋室で、食堂兼、居間といったところでしょうか。7人の餅つき兄 弟達が、赤鉛筆を耳にはさんで新聞を読んでたり、ビデオを見ていたり、お互い喋ってい たり、マンガを読んでたり、膝を抱えていたりしました。家の中でも外と同じように、ほ とんどハダカです。室内履きも、どうみても外で履いているものと同じです。どうやら彼 らはいつでも同じカッコのようでした。 部屋は、フローリングの上にカーペットが敷いてあって、真ん中には大きな丸いちゃぶ台 がありました。そして大きなテレビが1台、その他に小さなテレビが2台、それぞれのテ レビにはビデオが2台づつ付いています。 壁の1面が全部本棚になっていて、雑誌やマンガが天井まで詰まっています。大きなテレ ビの脇には、大きなビデオテープの収納棚があって、それもいっぱい詰まっています。 小島姫は、この家は一歩間違うと幼女連続誘拐殺人のM君の部屋みたいだな、と思ったの ですが、姫も嫌いなほうではありません。特に、たくさんあるビデオテープの中には、大 好きなマル禁ビデオがあるかもしれません。 小島姫が、嬉々としてビデオテープを物色してみようとすると、 「姫、ごはんができましたよ。」 そういえば居間には6人しかいないと思ったら、どうやら奥の台所で高岩が、小島姫のた めに朝食を作っていてくれたようです。 姫は高岩が用意してくれたお雑煮を食べながら、自分に優しくしてくれて気が利くのは高 岩くらいだ、と思いつつ、どうやってここで人気を集めるかを考えるのでした。

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小島姫本編         
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