冬の鳥取砂丘シリーズ No.8

お見舞い

 

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From: okajima3@gol.com
Subject: お見舞い
Date: 1997年10月09日 22:43:36:JST
To: tori-ml @love-bird.com <鳥メーリングリスト>

拝啓 南の島のとりのみなさまへ。
はじめてお便りいたします。ぶんちょうのぴぃといいます。
そちらは熱いですか?とてもけむいですか?
えさはきちんと食べられてますか?
わたしはいつもかごの中ですけど、窓からベランダから、鳥づてにお話をお聞
きして、とても心配におもっています。
山火事のご不幸、どうお慰みしていいのやら言葉もありません。
こちら雀仲間のちゅんちゃんから聞いたんですけど、そちらはとっても大変み
たいですね。つばめのぴーちゃん、ひよどりのおーちゃん、みんな言ってます。
こちらはるかとおい日本でも、とり仲間うちでとても話題になっています。
渡り鳥のかたをつかまえては、いつもその話題でもちきりらしいのです。
これから南に向かう家族のかたなんか、あっちのお家は火事でまるこげ、焼け
てなくてもけむくってどうしようかと、気をもんでいるみたいでとても気の毒
になります。こちら日本では寒くなってくるので、あちらに向かわれるかたは
これからが大変なんです。
でも、こちらはけむりの無いぶん、そちらよりましですよね。
同じ鳥として、同族のよしみとして、ここ日本からお見舞い申し上げます。
先日のこと、わたしのご主人がテレビを見ながら、なんたることだと缶ビール
片手にぼやいてました。なんでもテレビが話すところによりますと、マレーシ
ア、シンガポール、インドネシア(わたしは無学なのでわかりませんが、そちら
の土地の名前のようですね)なんてところで山を燃やしすぎたおかげで、けむり
がたくさん生まれたらしいのです。テレビでもそんなのを見ました。
このことはわたしが申すより、みなさんご存知のことですよね。
なんでも鳥の神様までが、あまりのけむたさに落ちてしまったらしいのですね。
わたしにはよくわかりませんが、大きな神様の亡きがららしきものの光景から、
たくさんの人間が棺にすがって鳴く光景をテレビで主人といっしょに見ました。
わたしもいつかベランダに出されてた時、となりのお家のたき火のけむりに食べ
られそうになり、ひどい目にあったことがあります。
わたしは必死になって鳴きました。主人がいたからよかったものの、いまおもい
だしてもぞっとします。
だからけむりは大っきらいです。
なんで山なんか燃やしたりするのかしら?
人間のすることは、よくわかりません。
なんで山なんか燃やしたりしたのかしら?
わたしの小さな頭をいくらかたむけてみても、よくわかりません。
かたむけすぎて、止まり木から落っこちてしまいました。
菜っ葉をひとくちついばんでみて、それからかんがえなおしてみましたけど、
やっぱりわかりません。
わたしには、わからないことだらけです。
やっぱりカゴの中ばかりにいてもダメですね。せかいをしらなくっちゃ。
わたしも南にすむみなさまみたいに、青いきれいなお空をすきなだけ飛んでみ
たい。
南の島のおいしいえさを、おなかいっぱい食べてみたい。
おいしいお水をのんでみたい。
あかるい太陽のした、おもいっきり水浴びしてみたい。
南の島のきれいなとりのみなさんといっしょに、お歌をうたってみたい。
森のなかのこもれ陽のなか、こずえのうえで足踏みしてみたい。
そうして南の鳥のみなさんのお顔がうかんできました。
みんなのお顔が笑ってる・・・。


わたしはそうして目をとじて思いにふけっていると、わたしのかごの中にいつ
しか金色の鳥の神様があらわれました。
はじめてお目にかかる、おごそかな神様です。
「よろしい」「・・・なさい」夢の中でおぼろながら神様がそうおっしゃいま
した。それはそれはおごそかな言われかたです。
金色の神様はかごのかべにしがみつき、黄金のくちばしで示されました。
くちばしの方向にはわたしのご主人様が、ビールをたらふく飲んで眠りこけて
います。あいかわらずテレビはつけっぱなしね。
私は神様にいわれるままご主人様にのりうつり、ぱそこんのすいっちを入れま
した。主人がいつも夢中になっているぱそこんです。
ぱちん。
ふだんのご主人の所作をそのままに、メーラーもたちあげました。
たしか、鳥メールっていうのを送ると、想いがとどくのでしょう?
黄金の神様はおごそかにうなずかれます。
鳥メールって、なんでも世界中の鳥さんとか、鳥さんのご主人さまがつうじあ
っているそう。あたたかい世界。
いつかご主人が、インターネットというのは世界のどこにでもつうじている由
を、得意になってお友達にはなしていたのを聞いたのをおもいだしました。
このメールは南のしまの鳥さんたちにとどくのかしら?
わたしにはむずかしいことはよくわからないけれど、少しだけかしこくなって
こうしてメールをうっています。
人間ってなんでもできて便利。
私のささいな願いをきいてくださった、黄金のとりの神様ありがとう。
少しのあいだだけお体をお借りしているご主人さま、どうもありがとう。
そしてなによりも、南の島のとりのみなさま、大変でしょうけどがんばって
ください。お体にきをつけてください。
いっこくもはやく、もとのきれいなお空がもどりますように、
ここ日本より、かごの中より、みなさまのご無事をお祈りしています。
                               かしこ
1997/10/09   ぴぃ

 

※1997年秋頃、インドネシア、マレーシアで畑作地開墾のため多くの森林を焼き払い、それが消すに消せない大規模な山火事に発展したため、衛星写真でも一目で分かるほどの大量の煙が発生した。当地の人々は目やのどに異常を訴えて、航空機の運航にも支障を来し実際に墜落事故もあったりしてTVでも大きく報道された。あれから8年。今年2005年も煙が多かったと聞く。

上に掲載したのは、うちの白文鳥のぴぃが、私に黙ってとある鳥関連メーリングリストに実際に勝手に投稿してしまったメール。

この当時はインターネットが一般にも流行りだして、メーリングリストが色々な話題のサイトで立ち上がり、脚光を浴びだした頃である。私が所属していた鳥関連のメーリングリストの話題を彼女も盗み聴きしていたらしい。素晴らしい鳥の世界のお話を。
ここでは彼女の一途な気持ちを尊重しつつ、メール発信記録に残っていて取っておいた懐かしいものをこの度改めて公開することにした。私も実のところ、このような環境破壊や地球温暖化等の環境問題には胸を痛めることが多く、ぴぃと思いを同じくするものであり、ぴぃと共に永遠に訴えて行きたいものである。

※おごそかな神様の説明です
姿形は小さな(雀ほどの大きさの)アカショウビンの様な格好をしている。アカショウビンは、これまた可愛らしい紅い大きな嘴を持つ野に棲む野鳥であるが、あんなちょっとユーモラスな感じ。全身が金ずくめなのだが、いわゆる成金ぽい嫌らしいゴールドではなく、そこにはおごそかな威厳がオーラとして感じられる金色である。あと、世間の鳥たちは、はるか上空高く飛ぶ飛行機のことを人智(鳥智?)を越えた恐れ多い神様だと思っている。メールの前半にでてくる神様の亡骸に取りすがって多くの人が泣く・・・というのと、後半で出てくるおごそかな神とはどちらも神様と言っているが違うものである。(紛らわしい・・・)

2005/10/02 Toru Okajima


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